小説『ハンチバック』を読んで

 Kindle Unlimitedに入会してから読める本が桁違いに増えた。2ヶ月99円キャンペーンを利用して入会したため、この2ヶ月でUnlimitedで読める本を読めるだけたくさん読もうという魂胆の元、サーチしていたらサジェストで出てきた本書。タイトルの意味もわからないし、表紙も抽象的で特に惹かれなかったため一度はスルーしたが本屋でどどんと平積みになっていたこと、芥川賞を受賞していること、そして何よりもページ数の少なさでサクッと読めそうなことからUnlimitedでダウンロードして読むことにした。

最初の書き出しに思わず二度見、書き出しが馴染みのあるHTMLの編集画面だったせいで「あれ、この本だけ表示バグってる」と、読み込み直しをしてしまった。
しかしよく読むと内容が過激なエロレポだったため、「あぁ、そういう仕様ね?」と最初の一ページ目で一気に興味が沸いた。

この『ハンチバック』という小説、重度な身体的障害者の女性が性的なことをしたい、そして願わくば「中絶してみたい」という欲を抱えてグループホーム(重度な障害者たちがクラス施設(?))で生活している様子を描いた作品だ。(ちなみにタイトルの「ハンチバック」は「せむし」という意味で大きく曲がった背骨を意味する。「ノートルダムの鐘」のカジモトをイメージしてもらえれば良い)

サクッと読めるページ数だからサクッと読めると思ったら、全然そんなんことはなかった。内容の濃さもだけど、自分のテリトリーにない言葉や状況が多く、読んでは調べ、調べては精一杯想像していたため、普段の倍以上の時間がかかった。

主人公の釈華はミオチュブラーミオパチーという遺伝性筋疾患を患っており、背骨は曲がり、喉にあけた穴から「カニューレ」を通して呼吸を行っている。一応一人でも生活はできるが、まともに外に出れないため、親の遺した巨万の財産とグループホームで生活を送る。釈華はエロ中心のコタツ記事ライターや官能的なTL小説、そしてエロなどを赤裸々に語る「釈花」というTwitterアカウントで自分の体験できない性行為、妊娠、中絶などを妄想し、羨望している。そんな生活をしている釈華にグループホームで働いている男性介護士の田中が声をかける。「中絶したいんでしたっけ」と。

この小説ではカニューレやマチズモ、不随意運動など健常者であればあまり耳にするものではないだろう言葉が平然と説明なく書かれている。この本を読みながら疎外感を感じた。話し手が障害を持った人だからかマジョリティ(健常者)とマイノリティ(障害を持った人)が入れ替わったような感覚に陥った。本を通して「こんなことは常識でしょ」「知らないわけない」という皮肉な声が聞こえてくる気がした(きっとそんな意図はないんだろうけど)。私含む健常者が当たり前に体験していることを当たり前だから説明をスキップするように、障害を持った人の当たり前、常識だからと説明をスキップされているよう。障害を持った人が体験していること、知識、常識を眼前に突き出された感じだった。

「愛のテープは違法」事件、米津知子の「モナ・リザ」赤スプレー事件など、これらも全然知らず、調べてはびっくりした。こんな事件が近くで起こっていたのか。健常者だから「自分には関係ない」と、みていなかったのか、考えなかったのか、なんにせよ「健常者」である私のアンテナには一度も引っかかったことのないものばかりだった。

私は24時間テレビが大嫌いだ、感動という安いベールで包んで綺麗な「作品」に仕立て上げるから。人間の人間たる部分、汚さ、いやらしさを包み隠している、と感じている。実家で暮らしていた頃は自分にテレビ権も部屋もなく、夏になるとリビングで流れる24時間テレビを受動視聴させられていた。

『ハンチバック』は人間の汚い部分、主に人前ではいえないような性の部分を「釈花」を通して描いている。障害者とか健常者とか関係なく、人間の三大欲求は性欲なんだ、と伝わる。

24時間テレビは障害者支援に逆効果だと思うことがさらにもう一つある。障害者を「綺麗に書く」せいで健常者と明確な線引きをしてしまっている点。こういうメディアのせいで健常者は障害者をより差別しているのではないか?健常者の自分には障害なんて関係ない、障害者の人生は自分とは遠いところにある、あくまでエンターテインメントだと思ってしまっているのではないか?

軽い気持ちで読み始めた100ページ足らずの本にとても動揺させられている。きっと自分も24時間テレビを見ていた頃の感性がまだ残っていたんだろう、どきり、としたんだろう。きっとどれも図星なんだ。

この本を読んで綺麗な感想でまとめられない、釈花のように、自分の中の社会には受け入れられないであろう思いが叫んでいる。

心のどす黒い部分が暴れ回ってもいい人にはぜひ読んでほしい。強く薦めたい作品だった。

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